特別攻撃隊隊員の最後の言葉

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私の飛行服のポケットには、お守袋が入っている。袋は学徒出陣の餞として京大から贈られたものである。 中には皇大神宮のお守りを始め、諸々方々のお守りがぎっしり入っている。私は朝、飛行服に着替えて学生舎を出ると、胸のこのお守りを手で触りながら明け切らぬ東の空に向い、「母上お早うございます。立派にお役に立つますよう、今日もお守り下さい」と口の中でつぶやく。 飛行機に乗る前にも、この所作を繰り返すことがある。夜は寝る前に星空に向い、「お母さんおやすみなさい、立派にお役に立ちますよう、明日もお守り下さい」と、こころでいう。いつ頃から、こういう習慣になったのかは知らないが、何は忘れてもこれだけは忘れたことがない。女々しいとも思い、滑稽だとも思う。しかし、この習慣を止めようとも思わない。 私は母の愛と祈りを片時も忘れたことがない。 私と母はいくら離れていても、このお互いの愛と祈りとでぴったり繋がっているのである。 沖縄方面にて戦死 (22歳)
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