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舞い上がる風に、柔らかな絹を遊ばせるように…彼は丘を見下ろした。
長身なその体に背負った荷物は、彼が始めようとしている旅にそぐわないほど少ない。
身軽ながらも美しい出で立ちに、後ろから声をかけた馬車を引く商人。
「街へ行くなら、後ろに乗るか?」
商人の言葉に彼はゆっくり振り返る。
フードから漏れた金髪が彼の空色の瞳を彩って、商人はただ彼を見つめていた。
「街へは行かない。
無事に街まで下りたければ、荷物ごとその馬車を寄こせ。」
彼は奏でた音のような声で、まるで盗賊を生業としているかのような台詞を綺麗な微笑みで吐き捨て、商人の前まで近寄った。
商人は理解できないまま立ちすくみ、やがて悲鳴にもならない声を飲み込んだ。
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