三十六

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自分と同じく、幼くして両親を亡くした総司。 土方は、百姓ではあるが豪農といわれる家に育ち、それなりに不自由無く育った。 それに比べて、総司は武家でありながら貧しく育つ。 まだ幼い嫡男の総司に代わり、長姉のミツが婿をとって何とか沖田家の存続を図ったが、貧しい暮らし振りに変わりは無かった。 そこで、本来なら家督を継ぐはずであった総司が、口減らしで近藤の道場に内弟子に出されたのだ。 皆が食べていく為に、やむを得ない事…。 そうは分かっていても、土方は総司を憐れみの目で見ていた。 目の前で剣術稽古に励む少年は、武家の嫡男であるのにも拘わらず、その家を出されたのだ。 どれほど武芸に秀でようとも、恐らく、…その沖田家に総司の居場所はもう無い。 いくら剣術に励んでも、百姓の息子である自分が武士になれないのと同じように…。 総司の成長を待って家督を譲るつもりなら、…例えどんなに貧しかろうが嫡男の総司は、長姉の元で武家の者としての教えを叩き込まれていたであろうから。 .
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