三十六

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『おめぇは…、  何の為に剣術やってんだ?』 そんな意地の悪い質問をした事もあった。 剣術を続けて、それから…総司はどうやって生きて行くのだろう。 報われる日など、来るのだろうか。 自分は総司と違って兄夫婦の元で暮らせてはいるが、このままでは生涯肩身の狭い思いをするだろう。 かといって、百姓の仕事にはやる気を見出せなかった。 (あぁ、武士になりてぇ…。  心底惚れ込んだ大将に忠義を  誓い、それを貫く為だけに真  っ直ぐに生きる…。       …誠の武士に。) そう思って剣術を始めたはいいが、一向に報われる兆しは無い。 そんな自分と、…憐れな身の上の総司とを、重ねて見ていたのかもしれない。 総司にした質問は、己自身に対する自問でもあった。 …けれどその質問に、総司は瞳をキラキラと輝かせてこう言うのだ。 『楽しいから!  近藤さんといると、   とっても楽しいんです。  近藤さんが教えてくれると、  どんな事でも出来そうな気が  するんです。  私にも、こんなに色々な事が  出来るんだ…って、近藤さん  が教えてくれるんです。  私の腕が上達すると、近藤さ  んはとても喜んでくれます。  …すると、   私も嬉しくなるんです。』 .
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