三十六

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『近藤さんが…、  近藤さんが…近藤さんが…』 そう言って健気に働き、剣術をどんどん憶えていく様を見て、そんな憐れみの感情など…どこかへすっ飛んでしまった。 一人の人間をここまで慕うこの少年は、自分の憧れる武士の忠義と似たような心を持っていた。 幼い総司にとって、近藤と過ごす時間だけが心の支えだったのだろう。 肉親を恋しく思う事もあっただろうが、近藤の前では一言も姉達の話はしないらしい。 幼いながらに近藤の心を煩わせるだけだと察したのか、…それとも、口にしたなら自分が堪えきれなくなると思ったのか。 ともかく総司は、一言の弱音も吐かずに、ただ近藤との剣術稽古に熱中した。 近藤もまたそんな総司に気付いてか、総司の稽古に根気強く付き合った。 (心底惚れ込んだ大将に       忠義を誓い…。) 『おめぇはもう、    見つけたんだな…。』 ボソリと呟く土方に気付き、 『何か言いましたか?』 総司が真っ直ぐな目で覗き込んできた。 その目は土方の心に強く残り、後に、それと全く同じ目をする諒に出会う事になるのだが…。 .
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