三十六

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武士の生き様に憧れながらも、どこかで「百姓の俺は…」と卑屈になっていた自分が恥ずかしくなった。 出自や身分ではなく、何か一つのものの為に貫き通す…その生き様に憧れていたはずなのに。 いつの間にやら、自分自身も出自にこだわっていた事に気付かされたのだ。 直向きな総司の姿に土方は、自分の力で成り上がる事を再び夢見た。 出自や家柄に胡座を掻いている者達よりも、その志や実力で本物の武士になりたいと…。 だが、それを口にすれば皆に笑われ「いいから働け」と、薬の行商をさせられる毎日。 近藤の道場にいる時だけは、唯一同志に恵まれた。 どんなに笑われようが、近藤は声高々に「俺は本物の武士になる」と言ってのけるのだ。 「元は百姓のクセに」と言われようが、力強い…真っ直ぐな目は怯まなかった。 そんな近藤に吸い寄せられるようにして、次第に試衛館には同じような志を持つ者達が集まり始めた。 幕府の恩恵を受ける天領の地で育った者の中でも、近藤の幕府に対する忠義心は、ずば抜けて強いものに感じられた。 .
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