三十六

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近藤とは旧知の仲であったが、ますますその気概に土方自身も惚れ込んでいった。 自分と同じ夢を持つこの男を、本物の武士にしてやりたい。 この男こそ武士の中の武士であると、この世に知らしめてやりたい。 土方も薬の行商がてら、あちこちの道場に顔を出しては剣の腕を磨いた。 道中、喧嘩をふっ掛けられては相手を熨し、薬を売りつけたりもした。 以前まで渋々やっていた行商が、剣の修行だと思えば、俄然やる気が出たものだ。 ── (こいつがいなきゃ、          俺ぁ…。) 土方はまた、「クソッ」と洩らした。 総司はただの風邪ではない。 土方は一切の願望を拭い去り、確信した。 試衛館時代に、近所の子供達に虐められようとも、「口減らしに出されたクセに」と陰口を叩かれようとも…。 近藤の前では心配をかけまいとして気丈に笑っていた総司だ。 病に罹った事を素直に言うはずがない。 池田屋の時も、体調が悪いのにも拘わらず、昏倒するまで闘ったのだから。 (松本も山崎も…恐らく秋山も  口止めされたに違いねぇ。) そんな総司の性格を知っていながら、「総司はただの風邪だ」と思い込もうとしていた自分の甘さを、土方は腹立たしく思った。 「……さん、  わた…は、ま……れます。」 「ん…?」 .
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