三十六

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汗に濡れた総司の額を、土方は固く絞った手拭いで拭いてやった。 「着替え…だったな。」 そう独り言を洩らし、土方は替えの着物を探しに襖を開けた。 寝間着になるような物を探していると、着物の間にあった黒い懐刀が手に触れた。 「…ん?」 土方が漁っていたのは総司のではなく、諒の荷だったのだ。 (なんで総司がこんなモン持っ  てやがんだ?) いくら刀好きとはいえ、帯刀している総司が、大した銘でもない懐刀に金を出すとは思えない。 しかも、後生大事に着物と一緒にしまってある。 そんな金があるなら、真っ先に甘味に注ぎ込みそうなものだ。 そう思ってしげしげと見てみると、総司ではなく諒が着ているのを目にした事のある着物ばかり。 (秋山のか…。  って事は、こいつぁ大坂の女  の形見…ってとこか。) 納得する土方の脳裏に、先日助けた女の姿が浮かぶ。 死んだ男の形見の櫛を、身を以て護ろうとした女。 あの女はちゃんと、前を向いて歩いているだろうか…。 .
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