ルージュ

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ゴツゴツとした指先が、その濡れた唇を撫でる。 薄暗い部屋中、瞳に微かなランプの灯りが映り、潤んだようなその眼差しに男の心が掻き乱されていた。 男は、これから罪を犯そうとしてるような感覚と、その罪悪感で身を逸らしたくなる気持ちを振り切るように、その瞳を大きく見開いてランプの灯りを招き入れると、女を真っ直ぐに見つめた。 「いいのかい?」 男の静かな問いかけに、女が瞬きで静かにこたえた。 次の瞬間、先ほどまで震えていたその指先が、熱く熱を放ち始め、力強く、女の頬を引き寄せる。 ベージュ色のルージュがひかれた、その女の年齢の割りにはやや地味な唇が、男の乾いた唇と重なった。 その手つきにはもう、躊躇いの色はなく、女に息もつかせぬほどに激しく、恐怖さえ感じるほどに荒々しい。 男は一度唇を離すと、女に束の間の休息を与える。 しかし、その吐息が漏れ切らない内に、半ば強引に女の身体を抱き寄せ、再び、その首筋に、頬に、額に、口づけを繰り返す。 快楽と戸惑いが混じる表情と苦しげな息遣いが艶かしさを伴って、女の口元から零れ落ちていく。
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