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血のように真っ赤に染まった月も妖艶で素敵だけれど、やはり一番は柔らかい黄色をした、優しいお月様だと私は思う。
特に、夜眠る前に天井の窓を見上げた時、墨の中の金片のようにそれがぽかんと浮かんでいたら、なんとも趣深い。
私は今夜も、屋根裏のような部屋の床に座りながら、斜めになった造りの天井を見上げる。
やはり今夜も、その窓の向こうには月があり、私に微笑みかけていた。その優しさに溢れた光に、私の心もほわりとあたたかくなる。
自分が今いくつなのかという自覚はすでになかったが、年老いてきたのは実感していた。前のようにしなやかに歩くことも、高いところに登るのも難しい。動くことすら億劫だった。
一日中、布団の中でじっとしていると、家族が心配そうに声をかけてくれる。
「もう年だからね」と言いたいが、それすらもできない体だった。
けれどそんな私が、月がもっとも美しく見える夜のこの時間だけは、わざわざ苦しい体に鞭打って階段を登り、この物置同然の部屋へとやってくる。
ここのドアがいつも開けっ放しなのは、家族が私を気遣ってのことだ。この夜の小さな散歩が、老いていく私の唯一の楽しみだと家族は気付いているようだった。
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