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気を遣わせてばかりで申し訳ないと、私はいつも思う。
家族は私の面倒を見てくれているが、私はそれに対してなにも返せない。ひどくもどかしくて、そう感じるたびに老化は進んでいくような気がした。
月はまるで懐かしさを思い出させるように、私の体に明るい光を落とした。
足元に影ができ、それを覗き込む。自らのものである影は、若い頃とちっとも変わっていないように見えた。
どうして月を見るのか。その理由を聞かれても、なかなか難しい。
あえて言葉にするとしたら、「ここを越えれば朝が来ることがわかる」から。
朝は夜が来なければ来ない。夜は朝が来なければ来ない。一対の関係になっているふたつは、つまり片方が存在すればもう片方も存在するということ。
老いていく体は、もう若くないことの表れでもある。
あとどれくらい生きていられるのか。あとどれくらい、家族と共に過ごす時間がもてるのか。
そう考えるとたまらなくなり、私は毎晩こうして屋根裏に上がるのだ。
今夜も月を見て、明日の朝が来ることを確認しなければ、私は安心して眠れなかった。
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