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この日、我が家の愛猫だったクロが死んだ。老衰だった。
クロはもう10年くらい生きたおばあちゃんだったが、子猫の時からうちにいたわけじゃない。
クロはある雨の日、道端でボロボロになっているのをあたしが発見し、家に連れ帰ったのだ。どうやら事故に遭ったらしい。
それから、我が家に家族がひとり増えた。
泣きじゃくるあたしに、母は優しく言った。
「クロはうちに来た時から、もう大人だったでしょう。だから仕方ないのよ。命あるものはいつか天に召されるの。それを怖がっていたら、なんにもできないわ」
「でも、でも、だって、あたしはまだクロと一緒にいたかった」
母の優しい瞳が、あたしを見つめる。
「そうね。ママもそうよ。クロもきっとそうだったでしょう」
「クロも?」
「そう。一番悲しいのは、きっとクロよ。クロだってもっとあなたと一緒にいたかったでしょうから」
母の目からも、いつの間にか涙がこぼれていた。
あたしは、なにを言おうにも言葉が詰まって、結局なにも言えなかった。
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