だから、今夜はおやすみ。

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   ここを越えれば、悲しみは去るのだろうか。  記憶が薄れて、クロのことを忘れて、そうすれば楽になるのだろうか。  夜が、真っ暗なその姿を微塵も残さず、朝の光を迎えるように。  でも、あたしはクロを覚えていようと思う。できるかぎり長い間、あのつんとした黒い姿を心にとどめておこうと思う。自分のためにも、クロのためにも。  クロの最後の望みが何かはわからない。  でも、あたしならきっとそれを願うから。  クロ。  今までありがとう。あたしたちにたくさん優しさをくれてありがとう。  クロのその冷たいけれどふとした時に見せる優しさは、まるで雲間から時折姿を見せる月のようでした。  長い間、寂しくひとりで生きてきたあなたが、最後に少しでもあたたかい思いができていたら、幸いです。  今はどうか、苦労も孤独も寂しさも忘れて、ゆっくり眠って。  またきっといつか会おう。それまで待ってる。  だから、今夜はおやすみ。  
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