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彼は毛布にくるまったまま、さっきから顔を見せようとしない。ベッドの上でぶるぶると震え、何かに怯えているようだ…。
まるで薬物依存症の入院患者だ。
だがここは、そういった類いの病院ではない。××県にあるキリスト教カソリック会系の教会の中だ。
その教会にある、普段は神父やボランティアに協力してくれる人達が寝泊まりする部屋の簡易ベッド上で、地元の中学三年生である彼…、小野寺礼次君は十字架を両手に強く握りしめ、何かに怯え震えていた。
彼がこの部屋に閉じこもって、既に一週間が経っている。何か相当なショックを受けたらしく、誰とも会話をしたがらない。
いや、出来ない。ほぼ心神喪失状態だと言っていい。
ただ時々うわ言のように、
『いんへるの…、いんへるの…。』
とつぶやくのが聞こえる。
『いんへるの…って、何です?。』
『いんへるのトハ《Inferno》ツマリ、地獄ノ事デス。』
僕の質問に、この教会のセルジオ神父が答えてくれた。
日本に来て、40年になると言うだけあって言葉は流暢だ。
ベッドの上で震えている小野寺君からは、セル爺と言って慕われていたらしく、彼が生まれた時に洗礼を施したのも、このセルジオ神父らしい。
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