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『彼ハ、タッタ一人カラ帰ッテキマシタ。彼ノ友達ハ可哀想ナ事デスガ…。』
神父だけあって、地獄から帰ってきたとは、まるでダンテの神曲のような話をするのだが、それを鵜呑みにする訳にもいかない。
当時、僕はさほど有名でもない大学を二年浪人して卒業し、地方新聞社に入社したばかりの新米記者で、この事件がいわば初仕事だった。
事件の発端は或る夏の日の、少年達の他愛もないゲームが始まりだった。
そのゲームとは、肝試しと称する懐中電灯を片手に夜の墓場を徘徊する、誰もが幼年期に一度は参加した事があるであろう遊びだ。
ただ彼等…ここにいる小野寺君とそのクラスメイト二人とが、ゲームの開始場所に選んだのは、ただの墓場ではなく、隠れキリシタン達のカタコンベ(地下共同墓地)だった。
それが全ての惨劇の始まりにもなった。
『やれやれ…。やりにくい取材になりそうだな。』
と、つい小声でつぶやいてしまったら、どうもセルジオ神父には聞こえたらしく、白髪を軽くなであげ左手でロイド眼鏡を外すと、すかさず右手で十字架をきってしまった。
僕の印象を悪くさせてしまったようなのだが、それも無理はない。
尊い少年二人の命が失われているのだから…。
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