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全国紙の新聞で、またTVのニュース放送でも報道された事件ので、記憶している人もいるかも知れない。
“男子中学生三人 野犬に咬まれ 二人死亡”
××県××村で起こったこの事件を、どうせ購買部数の少ない地方紙だからと、僕が在籍していた新聞社は海外のタブロイド紙よろしく…、
“ニホンオオカミの生き残りか!?…”
と、センセーショナルながらも安っぽい見出しを紙面に付けてしまった。
結果、地方紙には有り得ない位の苦情の電話やメールをいただいた。
“被害者遺族の心情を考慮しろ”
“ニホンオオカミは明治期までに絶滅している”
等々…。
これには編集長も責任を感じたらしく、交通費や諸経費を多めに見積もっていいから、事件の詳細を取材してくるよう僕に指示したのだった。
そしてはるばるこの地方にやって来たのだが、亡くなった二人の少年達の遺族からは取材を拒否され、大怪我を負いながらも命に別状のなかった少年の方は、病院にも実家にもいず、やっと探し当てたと思ったら、教会に身を隠しベッドの上でシーツにくるまったまま、ぶるぶる震えて顔も見せてくれない。
『あのぉ…、小野寺君だね。××新聞社の記者なんだけど、ちょっと話できるかな?。』
僕は名刺を取り出し、顔を隠している彼に見せようと差し出した。
『ほら、小野寺君…、分かるかい?。』
頭からすっぽりと被っているシーツの隙間から、こちらを窺っているようだが、彼の顔はよく見えない。
『モウ、ヤメテクダサイ。ソットシテアゲテクダサイ。』
セルジオ神父に促された事で逆にムキになってしまい、彼の肩と思しき辺りに手をやり強くゆすった。
『小野寺君、顔を見せてくれないか。』
『イケマセン!手ヲ離シナサイ!。』
セルジオ神父のヒステリックな怒鳴り声を受けた事で、かえってムキになった僕は、シーツを一気に引き剥がした。
小野寺君は俯せに体を丸くしてうずくまったまま、顔をゆっくり上げた。
そして僕は思わず大声をあげてしまった。
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