斜光線

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それぞれの原子が 秘密という電子を共有する結合は 強い… しかし、それ以上でもそれ以下でも無かった。 夢中になって読んだ 五木寛之の 『青春の門 筑豊編』 の一節に 「織江は信介の胸の中で鳩の鳴くような声を出した」 という記述があった。 女の性(さが)など知る由もない少年の素朴な疑問を、ある日イタズラっぽくぶつけた。 『どんな声なのか 試してみる?』 耳年増のマセガキの目論見(もくろみ)は一瞬にして潰(つい)えた。 勝ち誇ったように口元に笑みを浮かべる。 僕は、空になった珈琲カップを手に取り 斜光線差し込む図書準備室で おもむろに立ち上がり 彼女に近づき 真っ赤な唇と自分の唇を重ねた。 完
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