桐壷

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また時には、どうしてもそこを通らなければならない廊下の戸を、あちらとこちらでしめしあわせて閉じ、外から錠をかけ、中に更衣やお供の女房たちを閉じ込めて、途方にくれさせるようなこともよくありました。 こうして、何かにつけて数え切れないほどの苦労が増えるばかりで、更衣はそれを苦に病んで悩み、ふさぎこんでしまいました。 それを見ると帝はますます不憫で愛しさが募りました。 そこで、それまで後涼殿に部屋をもらい住んでいた一人の妃を他へ移すように命じ、そのあとに更衣を呼んだ時には使うようにしました。その部屋を追い出された妃の身になれば、どんなに悔しかったことでしょう。 若宮が3才となった年、御袴着の式がありました。 先に行われた一の宮の式に劣らないよう立派にしました。 それにしても世間では、非難ばかりされるのに、若宮が成長するにつれ、顔や姿、その性質がとても優れているので、さすがに妃たちもこの若宮を憎むことはできません。 ものの情理をわきまえた人は、こんなに世にも稀な優れた人がこの世に現れることもあるのかと、目を見張っています。 その年の夏、更衣は気鬱の病となり、実家へと帰って養生したいと願いましたが、帝はまったく暇をくれません。 何年か更衣は病がちだったので、帝はそれに馴れてしまい、 「しばらくこのままで様子をみよう」 と、言うばかりなのでした。 そのうち病は日増しに重くなり、ほんの数日のうちに、すっかり衰弱してしまい、更衣の母が泣きながら帝に願い、ようやく実家へと帰ることができました。 こんな時にも、もしもひどいことをされて、恥をかかされるようなことがあるのではと思い、若宮は宮中に残されたまま、更衣だけが帰ってしまいます。 帝が引き止めたくても、宮中の作法があり、これ以上引き止めることができず、その立場から見送りさえ思うようにできないことをつらく感じるのでした。 もともと更衣は艶やかで美しく、可憐な人だったというのに、今はすっかりやつれてしまい、心に帝との別れを悲しみながら、言葉にすることもできません。 それを見ると帝は何も考えず、ただ泣きながらたくさんの約束をしましたが、更衣はもう返事もできません。すっかり弱々しくはかなく、意識があるようにも見えません。いつもよりも更に弱々しく横たわっているばかりでした。
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