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僕はランプをスポーツバッグに仕舞い、そそくさと家路を急いだ。
僕以外誰もいない河原から、不法投棄されたゴミ達から、落ちていたバニラアイスの包み紙から、逃げるようにしてチャリンコに乗り、走り去る。
オレンジの光に包まれながら、汗だくになって、ペダルを漕ぎ続けた。
誰にも会う事なく、自宅に到着する。
息せき切って家の門を抜け、あたふたとチャリンコを片付けた。
スポーツバッグを小脇に抱え、玄関の扉を開く。
カウベルが軽やかに鳴った。
只今も言わずに靴を脱ぎ散らかし、急いで階段を駆け上がる。
そして立つ。
二階の廊下で、立ち尽くす。
「――伊季」
呟いてみた。
そして長い長い溜め息を吐き、自分の部屋へ、とぼとぼ入る。
スポーツバッグをベッドに放り投げた。
思い直して、机の上に置く。
ベッドに仰向けに倒れ込む。
右の二の腕で両目を覆い隠すと、つむった瞼の中で、光が舞い踊った。
足が、ジンジン痺れている。
「伊季」
もう一度呟いた。
じわりと涙が滲んで、鼻の奥がツンとする。
そして、バニラの香りが漂った。
錯覚?
動揺した僕の左手がベッド脇に積み上げられた漫画本を崩す。
思いの外、大袈裟な音を立てて、全巻揃えた漫画本が、ばらばらと崩落。
「あ~あ。何やってんのよ、兄貴ぃ」
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