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「うっせーよ、今それ所じゃ――」
目を見開き、手を振り払うようにして、がばっと跳ね起きる。
部屋の出入り口を、片膝を付いて凝視した。
ベッドのスプリングが、ぎしぎしと軋む。
僕は、あんぐりと、だらし無く口を開けて、ぽかんとした顔を晒した。
「この前よか、髪ぃ、伸びたんじゃない?」
小首を傾げる。
張りのある髪の毛が肩の上で揺れた。
バニラの香りがまた僕の鼻腔を刺激する。
錯覚じゃなかった。
伊季は復活したんだ。
あのオッサンの言っていた事は本当だった。
でも今この前って言ったか。はてな?
「あいっかわらず挙動不審だよね兄貴は」
言いながら漫画本を手に取り、ぱらぱらとめくり目を通す。
「な、何を、言ってのかな? 僕はすっかり大人だぜ? お・と・な」
ばん! 乱暴に本を閉じた伊季は、いきなり僕を怒鳴り付けた。
「仮性包茎がっ、偉そうな事言ってんじゃないわよっ!」
ええ~?
何で知ってんのぉ~?
「ば、馬鹿だな伊季は。人間の価値はそんな瑣末な事項では計られやしないんだぞぉ」
「何言ってんのよ。この兄貴(仮)は」
「何だよ、その(仮)って。そんな事よりさあ、人と話す時は顔を背けたら失礼」あれ?
「お前、身体はこっち向いてんのに、何で顔が、明後日の方向、向いてんの。目の錯覚?」
瞼を閉じて、目頭を押さえる。
思い切って見直した。
「な、なな何を言ってんののよよ。おかしな兄貴ねっ」
両手で自分の頭を抱えるようにして、明らかに、狼狽する妹の姿。
しかし、その外観に不自然な点は見受けられないようだ。
軽やかな外ハネの黒髪ボブカット。
一重瞼で切れ長の目。
小粒な鼻と唇。
衿付き半袖カットソーはレモンイエロー。
膝下丈のデニムカプリパンツが、身体のラインを顕に「何、妹の身体舐め回すようにガン見してんのよっ! 犯罪者の眼ぇしてっ!」
敬愛する兄を睨む、最愛の妹。
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