No.3 第一の願いと妹

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「うっせーよ、今それ所じゃ――」 目を見開き、手を振り払うようにして、がばっと跳ね起きる。 部屋の出入り口を、片膝を付いて凝視した。 ベッドのスプリングが、ぎしぎしと軋む。 僕は、あんぐりと、だらし無く口を開けて、ぽかんとした顔を晒した。 「この前よか、髪ぃ、伸びたんじゃない?」 小首を傾げる。 張りのある髪の毛が肩の上で揺れた。 バニラの香りがまた僕の鼻腔を刺激する。 錯覚じゃなかった。 伊季は復活したんだ。 あのオッサンの言っていた事は本当だった。 でも今この前って言ったか。はてな? 「あいっかわらず挙動不審だよね兄貴は」 言いながら漫画本を手に取り、ぱらぱらとめくり目を通す。 「な、何を、言ってのかな? 僕はすっかり大人だぜ? お・と・な」 ばん! 乱暴に本を閉じた伊季は、いきなり僕を怒鳴り付けた。 「仮性包茎がっ、偉そうな事言ってんじゃないわよっ!」 ええ~? 何で知ってんのぉ~? 「ば、馬鹿だな伊季は。人間の価値はそんな瑣末な事項では計られやしないんだぞぉ」 「何言ってんのよ。この兄貴(仮)は」 「何だよ、その(仮)って。そんな事よりさあ、人と話す時は顔を背けたら失礼」あれ? 「お前、身体はこっち向いてんのに、何で顔が、明後日の方向、向いてんの。目の錯覚?」 瞼を閉じて、目頭を押さえる。 思い切って見直した。 「な、なな何を言ってんののよよ。おかしな兄貴ねっ」 両手で自分の頭を抱えるようにして、明らかに、狼狽する妹の姿。 しかし、その外観に不自然な点は見受けられないようだ。 軽やかな外ハネの黒髪ボブカット。 一重瞼で切れ長の目。 小粒な鼻と唇。 衿付き半袖カットソーはレモンイエロー。 膝下丈のデニムカプリパンツが、身体のラインを顕に「何、妹の身体舐め回すようにガン見してんのよっ! 犯罪者の眼ぇしてっ!」 敬愛する兄を睨む、最愛の妹。
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