NO.5 妹とバニラアイス

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その日、僕は面白くなかった。 天気は覚えていない。 何月何日の何曜日だったのか、何時頃だったのか自分が何歳だったのかも丸で覚えていない。 覚えているのは、日中だった事。 覚えているのは、妹だけお母さんに誉められて、僕は叱られたという事。 暑かったのか、それとも寒かったのか、何で叱られたのかも、全く記憶に無い。 覚えているのは、螺旋状の階段。 新しい木の香りがした。 キラキラ光って。 ツルツル滑った。 その時、僕と妹は階段にいた。 階段で二人遊んでいた。 昇ったり降りたり。 きゃっきゃっきゃっきゃっ。 声を上げて喜んでいた。 笑っていた、はしゃいでいた、妹。 憎たらしくて、仕方なかった。 何でお前は誉められて、僕は叱られるんだ。 嬉しそうに楽しそうに、僕を見て笑うな。 お前なんて、お前なんかお前が、お前が、お前が悪いんだ。 何、楽しそうに笑ってんだよ、この、お前のせいで、僕は悪くないのに。 叱られた。 くっついて来るなよ! 覚えているのは、バニラの香り。 妹が食べていた、バニラアイスの匂い。 妹の口許に残っていた、バニラアイスの白。 顎に、首筋に、胸元に残っていたバニラの香り。 くっついて来るな! お前のせいで! この。 階段の最上段に立った僕は。 よちよち、くっついて来る妹を。 僕は
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