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大柄な白人男性は仕立ての良さそうな黒のタキシードを身に纏(まと)っていた。
頭には白いターバンを巻き付けている。
対して僕は、有りがちな紺のブレザーにグレーのスラックス、足元は、ローカットで白一色のカラーリングをしたキャンパススニーカーだった。
髪はベリーショートの黒で、顔は、まあ、その、普通。
「これはこれは。失礼致しました。そう言えばまだ名乗りをあげていませんでした。私は、何だったっけ……ああ、ジンと言います。あなたは?」
自分の名前を忘れる……健忘症とかいう奴だな。
触れまい。
敢えて触れまい。
「手形一息(てなり・かずき)って言います。てがた、って書いて、てなり。ひといき、って書いて、かずき、です」
しかしジン、か。
やはりランプの魔神を気取った可哀相な人なのだな。
責めない。
否定しない。
その二つを心掛けるとしよう。
ん?
ジンさんの左頬が微妙に引き攣(つ)っているような?
「手癖が悪いわね、の手に。形が悪いわね、の形に。今まで見た中で一番駄目ね、の一に。息が臭いわ、の息。素敵な名前をお持ちですな」
「帰れ! ランプの中に帰れ! どんなシチュエーションだ、それは!」
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