*鳴かない猫*

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「えぇっ?!…ちょっと…」 目で追いきれない物体に思わず原形に戻り、追う。 本棚の影に隠れたそれは、黒い小さな猫だった。 レイの原形に酷く驚いている。 無理もない、レイの原形は犬によく似ているし、いきなり人が姿形を変えれば、猫で無くとも驚くだろう。 猫はレイを警戒する風に後退りながら、扉の方へ向かう。 しかし、生憎扉は中からは引かなければ開かない。 これ以上猫を驚かすのは賢明では無いが、レイは猫に話しかけようと試みた。 「…ここに何かご用ですか?貴方がこちらに害を及ぼす気が無いのなら、こちらも貴方に危害を加えるつもりはありません」 果たして言葉が通じたかは定かでは無いが、猫は一先ず後ずさるのを止めた。 ただ、まだ警戒は解かずにこちらを伺っている。 黒い猫は、ちらちらと本棚を伺っては、レイを警戒して見せた。 「…本が読みたいのですか?」 まさかと言う半信半疑な想いで問うと、意外にも猫はコクンと頷いた。 レイは人の姿に戻ってゆっくりと近づくと、身体に力を入れたままだが、猫は逃げずに真っ直ぐとレイを見た。 「それならお好きな物を選んで下さい。私の部屋でなら居ても構わないか、朝紅葉に聞いてみましょう。うちの家主が猫アレルギーなんですよ」
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