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僕は何となく、その場に居づらくなり、図書室を後にした。
図書室から出て数歩目。
「…本…返してない…」
返却日は今日まで。なんとしても返却しなければ。
そのまま帰ろうか迷ったが、図書教員からのお説教は嫌なので、足を止め、図書室へ引き返した。
図書室の前まで来て、扉に手をかけたると
「さっきの奴がモミジの好きな人?」
教室から話し声が聞こえる。あの男子生徒の声だ。
さっきの奴って…僕のこと?…
何を言われるのか、モミジとはあの子の名だろうか。盗み聞きは気が引けるが、入るに入れず、そのまま扉の前で佇んでいた。
「す、好きというか…はい」
「かなりモテるらしいじゃん。あの人」
「…ステキな人だよ」
「…恋は盲目」
「…盲目なんかじゃないし!」
会話を聞いたのはそこまでで、僕は図書室へ入らないまま、昇降口へと足をむけた。
…うわぁ…なにこれ。めちゃくちゃ嬉しい。
結局会話を聞いてしまった僕。少しの後ろめたさを感じながらも、彼女が僕を好きだという事実に、いつもより早い胸の鼓動が、心地好く響いていた。
彼女に惹かれ始めたのは、その時からだ。
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