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死神の私が、自殺志願者?とんでもない勘違いをされたものだ。今回の任務を報告したら、同僚に笑われるに違いない。
「あんた、名前はなんだ?」
森川が唐突に訊いてきた。
「田辺。田辺敏郎。」
私はとっさに答える。
タナベトシロウ、これは私が日本で任務を行う際に使用する偽名だ。タナトスという名から適当に作りあげたものだが、これが違う国で任務を行う際には、トーマスになったり、リンになったりする。私は適当に決めているが、凝った偽名を考える同僚もいるらしい。
姿を見せないのに、なぜ偽名を持つ必要があるのかずっと疑問に思っていたが、このような不測の事態に備えるためなのかもしれない。
「俺は森川一樹だ。こんな形で出会うとは奇遇だな。」
わざわざ名乗らなくとも、死亡予定者リストを見たので名前は知っている。
森と樹、よりによって樹海を連想させる漢字が二つも入っているじゃないか、と皮肉の一つも言ってやろうかと思ったが、飲み込んだ。ただでさえ私は、そのシニカルな性格のため、同僚から冷淡だと指摘されている。
「田辺さん、俺たちは運命共同体だ。一緒に行こう。」
一体何なのだ、この男は。私を勝手に自殺志願者と決めつけ、道連れにしようとする。
しかし、森川が死ぬまではこの場を離れることができない。それは確かだ。
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