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結局、森川と共に樹海をさまようことになってしまった。
さっきまで木々の間から注ぎ込んでいた日の光も弱くなり、辺りは夕闇に包まれている。
「午後5時か。」
腕時計を見た森川が溜め息をつく。
「暗くなる前に、寝られる場所を見つけないとな。」
「それは、死に場所を見つけるということか?」
私は真面目に尋ねたのに、森川は「田辺さん、あんた皮肉だね。」と答えただけだった。
しばらく歩くと、くぼ地のようになっている場所を発見した。
「大人二人が横になれるスペースはあるな。」
森川は片手に持っている大きなリュックをくぼ地に下ろした。ドサッという重みのある音がする。
私はさっきから疑問に思っていたことを森川に尋ねた。
「そのリュックは一体何だ?」
登山用の大がかりなものと見える。
「これか?自殺準備グッズだよ。」
森川はそう言うと、リュックの中身を出し始めた。
私は閉口せざるを得ない。非常用のクラッカー、缶詰、ミネラルウォーター、携帯ラジオ、懐中電灯…そんな自殺には到底必要ないものが次々に出てくる。
「寝袋もあるぞ。予備のために2つ持ってきたんだ。田辺さん、使ってくれよ。」
森川はこれらの備品が尽きたとき、死ぬつもりなのだろうか。任務終了の時間がのびるのは確実だった。
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