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まあ、走ったからといって腰が丈夫にはならないが……。でも、走るのは良いよね、ゴールした時の達成感とか。
そりゃ何十分も走ってるのは苦しいさ。でもその分ゴールした時の喜びがあると思うんだよ。自己ベストなんかでたら最高だろう。こういうのを、確かカタルシスって言うんだよな……。
陸上部の人たちもだから走るんじゃないかな? 陸上部じゃない俺が語ってみました。すんません、でも、走るのは大好きです。
さて。
姫華は何をやっているんだろう。そろそろネクタイを離してツッコミを入れてほしいんだが……。はて?
「何でネクタイを離さないんだ? おま――ぐえっ」
ネクタイを引き絞られた。くっ、苦しい……。
母さん……いや、この際クソオヤジでも構わん。助けてくれ。息子が命の危機に瀕してます。てか、何で誰もこいつの暴挙を止めんのだ!
首が絞められ、頭に程よく血がたまってきたのに危機感を多大に感じながら、俺は視線だけを周囲に這わせた。
右を見る。野郎三人は話し中。こちらにはブラジルで五歳児がアイスを落としたのを日本で知ったくらい微塵も注意を払っちゃいなかった。
クソッタレめ。
内心で口汚く罵りながら左に目を転じる。夏の到来を匂わす生暖かい風を受ける車が二台、そこに鎮座していた。
おろ? 神巫ママと母さんがいない。
後ろか?
だが、俺は生憎視界範囲の広いシマウマなどでも首が180°回るフクロウなどでもないので確認する手段はなかった。
「神巫、うっぷ……。頼む、ネクタイを離してくれ……。何か、綺麗な花畑とか河童が潜んでそうな川とかじぃちゃんが見えそうだ……」
じぃちゃんは健在だが。今ごろは化粧が派手で露出の激しくお姉さまがいる店で酒でも呑んでいることだろう。血が繋がっているとは思いたくない。
てか、早く離せ。本気でチュウするぞ、ほら!
……本当にやるぞ?
いかん、視界がぼやけてきた。乱視の人が見る世界はこうなのかもしれないな……ってふざけてる場合じゃなかった。
ゴクリ、と生唾を呑みこむ(喉を絞められてるから痛かった。てか、むせそうになった)。助かるためには……、姫華が慌てて俺を離すようなことをしでかすしか……ないッ!
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