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うん、今回ばかりは許せそうにない。デコチュウしなかったからなんてそんなアホな理由だとか、もしくは誠心誠意謝罪すればそのかぎりではないが。
「あっ、あんたが悪いのよっ!」
姫華は林檎に転職したかのような形相でそう言った。だからさ、俺がどう悪いのか聞いてるんだが?
「その……キッ、キス……するって言ったのに……」
「は? おまえ、俺なんかにキスされたいのか?」
それは悪趣味としか言いようがないぞ? いや、分かったぞ! くそ、何て策士なヤロウなんだ。
姫華は俺にデコチュウをさせておいて、それをネタに強請るつもりだったに違いない。ああ、げにおそろしや。だが、その手にはのらん。
「ちっ、ちがっ! 別にあんたとしたい訳じゃなくて! ゲーム……、そう! ゲームでヒロインが主人公におでこに……キス……されて幸せそうな顔するからどんなものか気になっただけよっ!」
ちっ。予想が思いっ切り外れてしまったか。勘違いもここまで甚だしいといっそ哀れである。てか姫華はそんなことで強請るような奴じゃなかったな。キスって蚊の鳴くような声でしか言えないくらいだし。普段からそういう恥じらいがあればな……。
何かごめん、と心中で姫華にとんでもない誤解をしたことを謝りつつ、
「姫華、それはヒロインが主人公のことが大好きだからだよ。それに、おまえは良い女なんだからそう気軽に肌を許しちゃ駄目だぜ?」
本当に俺はそう思う。売春なる行為が横行している昨今の情勢は本当に嘆かわしいモノだ。ま、する人を止めさせるつもりは全然ないけどな。
やりたい奴はやればいい。個人の意志を尊重するのが、俺の基本スタンスだからな。ま、今みたいについつい言っちゃうこともあるけど。それはまだまだ俺が至らないガキだから仕方ないことなのさ。
言ったついでだ。もっと言ってやろう、この際。
「良いか、良く聞け。キスなんてのは好きな人やるから良いんだ」
キスしたことない俺が言っても説得力はオケラがケータイを使うことくらいないが。
「だからおまえは本当に好きな奴とキスをしろ。ヒロインの気持ちなんてその時にこそ分かるから、嫌ってほどな」
ま、愛がなくてもヤレるやつが沢山いるのも事実。でも、それでも、そういうのはやっぱり好きな人とが良い、と俺は考える。だからこそ昔――。いや、昔はいいや。
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