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さて、今の俺の状況をよく考えてみようか。
クラスメートの女子にキスの重要性なんぞみたいなんをキスをしたことない輩が語り、その後、彼女が出来たことないと暴露する場面をその女子の母親にばっちり見られた。
うん、ものすごく……恥ずかしい……。
「それで何の用ですか?」
過去を捨て去り、俺は話を変えることにした。
「うん、そんなに大したことじゃなくて一心くんとうちの旦那と息子が急な仕事で会社に行っちゃった、って言いにきたの」
本当に何でもなさそうに、艶やかな笑いを含んだ声で、そう告げてきた。
「そうなんですか? 大変ですね、大人は……」
俺なんか学校退けたら家に引きこもってるのに。ふむ。仕事か……って仕事!?
「ちょっ、待ってください」と、俺。「あのバカオヤ……コホン。もう父は行っちゃったんですか?」
尋ねながら、俺は周りを見渡す。先ほどまであった二台の車は一台に減っていた。うそざむくそこに残っていたのは、ダックスフンドみたいな車体の長い短足車。
大したことあるじゃねぇか!
呆れてモノも言えない俺の耳に声が入ってくる。
「行っちゃったよ。本当に急いでたみたいだからねぇ」
金せびってやるつもりだったのに……。ま、母さんは残ってるし、帰りは新幹線になるだけだ。問題はないだろう。
☆ ☆ ☆
聞いてください。問題、ありました。
「母さん? 今何て?」
ヤロウ三人がスタコラさっさとうちの車で仕事に行ったことを知った後の会話である。夢想旅行を終えた姫華はリムジンにすでに乗り込んでいるため、俺と話をしていたのは母さんと神巫ママであった。
俺が母さんに言ったのは、どうやって駅に行くんだ、と尋ねたところ、驚くべき答えが帰ってきて、俺の冒頭のセリフに至るわけである。
愚昧な息子に呆れるかのように母さんはため息をつき――凄く心外だ――首を傾げて頬に手をあてがい、再度似たようなことを口にした。
「だから、神巫さんのお宅に泊まる、って言ったの」
俺の聞き間違いではなかったようである。ふざけないでください。
「ふざけてないわよ。泊まるったら泊まるの」
「実家に帰らせていただいてもよろしいでしょうか?」
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