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夫の浮気を知った女性が、バッグに荷物を詰め込み有無を言わさず告げるようなセリフを、俺は吐いた。どこの世界に幼なじみでも彼女でも何でもない女子の家に泊まる奴がいると言うのか。しかも建て前では何ら接点のない人の家に。まあ、二次元なら軽くありそうだが。
「むぅ」と、神巫ママ。「そんなに家に来るの嫌? 結構豪邸だよ?」
すみません、余計行きたくなくなりました。小心者である俺は広い家とか落ち着いていられませんし。
「何なら姫ちゃんがお風呂に入ってるのを覗いても良いのよ? あ、それとも一緒に入る?」
どこのワープホールからそんな発想が出てくるんだろう。娘の貞操を心配してあげてくださいよ。それと覗きなんかしません。ついこの間それ関連でのイヤな思い出が出来たばっかりだし。
「慎んでお断りいたします。それ以前に神巫さんも嫌がりますよ」
「じゃぁ、私と入る?」
唇にピンと立てた人差し指を当てながら尋ねてきた。
「…………。……いえ、お断りします」
ものすごく魅力的なお誘いだけど、神巫パパにバレたら、おそらく俺は二度と太陽の光を浴びることが出来なくなりそうだし。
「母さん」
「なぁに? ちょっと迷った変態さん?」
返す言葉もございません。でも、断れただけ、俺は常識的な人間だと思います。
「……いや、母さんだけ泊まると良いよ。俺は一人で帰るからさ」
それに、明日は厭世たちと遊ぶんだよ。だから、金をください。新幹線代に少し色をつけて。
「ダーメ。でも神巫さんのお宅に一緒に来たらあげるわよ?」
話は平行線をたどりそうである。でも、俺は一歩も引かないぜ。
「じゃ良いや。タクシーで帰るから」
タクシーでもカードが使える世の中に感謝感激雨霰だな。遊ぶ金は、銀行からおろせば良いや、お年玉貯金を。どんくらい残ってるか知らないけど。
と、邪魔者がやって来た。話をややこしくすんなよ、頼むから。
「お母様? 何をしてるの?」
なかなか車に乗り込んでこないことに待ちくたびれた姫華が窓を開けて声をかけてきたのだ。それに答える神巫ママ。親子の会話を尻目に、俺も母さんに最後の交渉をもちかける。
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