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俺はしどろもどろになりながら、横で面白くなさそうな表情で――さすが生粋のお嬢様だな。歯牙にもかけてないっぽい――突っ立っている姫華に言葉をかけた。
「神巫、頼むからおまえからもあの人に言ってやってくれないか……? 俺が人から敬意を払われるような人間じゃないのはおまえがよく知ってるだろ?」
姫華は俺をちらっと見上げてから呆れたように呼気を漏らし、
「横山」呼び捨てかよ。「コレにはそんな態度をとらなくても良いわよ」
何でこいつは偉そうに年上の人にあんな言い方出来るんだ。俺には出来そうもない。軍曹? ありゃ例外だ。
「お嬢様がそう仰られるのであれば……。では貴方は私について来て。ご母堂は別のメイドに案内させますので」
うわっ! いつの間にかメイドさんが一人増えていた。
「あらあら」と、母さん。「ご丁寧にどうも。よろしくお願いしますね」
いつもどおり、たおやかな笑みを貼りつけながら言った。羨ましい。何であんな平然としてられるんだ。俺はもういっぱいいっぱいだ。やっぱ帰ればよかった。
早速後悔していた。
「ほら、行くわよ」
「あ、はい。すいません」
切り替えが早いな、と感心ながらメイドさん――横山さんだっけ――の後を追った。
案内された部屋はうちの学校の教室くらいの広さの部屋で、床はフローリング、ベッドは部屋の端よりに置かれてあった。…………。
「あの、」と、俺。「本当に申し訳ないんですが、ここより小さい部屋ってないですか……?」
こんな豪勢な家に狭い部屋など存在しないと思うが。
「貴方って旦那様の会社の副社長の息子さんなのよね?」
言葉のキャッチボールが成り立ってないが、横山さんは思っていたよりも柔らかく玲瓏な声でもって話しかけてきた。そのことにより、若干緊張が和らぐ。
「はい。そうみたいですよ」
「みたいって……」
今日知ったんですよ。
「まあ、良いわ。それと、一心さんの息子ならもっと堂々としたら?」
何をバカな。そういうのを親の七光りって言うんだよ。俺はオヤジみたいに優秀な人間じゃない。それが分かるくらいには賢いぜ。
そう思いながら話題を変えるため、口を開く。
「あはは。それより、風呂とかってどうすれば良いんでしょう?」
男風呂、女風呂別れてるとかなり嬉しいんだが。
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