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「ギッ……ギャァ――――ッ!」
普通は逆なのだろうが、俺が叫んだ。仕方ないだろう、そんくらいビックリしたんだよ。叫ぶ余裕はあったけど。
その後のことはあんまり覚えていない。気づいた時にはあてがわれた部屋の隅に縮こまって辞世の句を考えていた。どうやって服を着たんだろう。不思議でならない。
と、壁に向かってぶつぶつと今までの人生を、「昔は良かった……」と振り返ろうとしたんだが、考えてみれば何か不幸な目に遭ってることのほうが多いと気づき暗澹たる気持ちが我が身を襲い始めた時、ドアが三回ノックされた。
ついに来たか。
ここは人の家なのでおかしいかな、と思いつつ、どうぞ、と消えいりそうな声で言った。そして、遠慮がちにドアが開き、女性三人がやって来たのかと思いきや、来たのはお母さんズだった。
二人の表情を読み取る精神的余裕は全くなく、俺は即座に土下座した。
「すっ、すいませんでした……」
こういう時は、滅茶苦茶に責めてくれた方が、実は気は楽だ。だから、俺も頬をはたかれたり何だりされた方が良かったんだが、返ってきたのは、耐え難い沈黙であった。それがさらに俺の自虐心・後悔を煽った。
頼むから何か言ってほしい。
心を込めてもう一度誠心誠意謝罪の言葉を述べようと口を開こうとしたまさにその時、神巫ママのクスクス笑いが耳朶をくすぐった。何で笑うんですか。
「だってさ」と、神巫ママ。「うちの露天、混浴だよ? 横山から聞かなかった? だから別に謝らなくてもいいのよ?」
聞いてないよ、横山さん。単に俺が耳を貸さなかっただけのような気もするけれど。
でもそれはまた新たな問題が浮上してくる訳で、それはつまり俺が露天だと知ってあそこに浸かってたのはそういう展開を狙ったと思われても仕方のないことになって……ああ! もう頭がぐちゃぐちゃで訳が分からない。
「あら」と、母さん。「知ってて入ったんじゃなかったの?」
ほら見ろ。こんな勘違いをされた。てか、今の俺やちょっと前の俺を見てどうやったらそんな勘違いが出来るのだろう? あれは事故であってそれ以上でもそれ以下でもないんですよ、母さん。バスタオルを巻いた三人の姿は眼福以外の何でもなかったけど。
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