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家に帰ると千鳥がオモチャの兵隊で遊んでいた。そんなものを買い与えた覚えはないので、誰に貰ったの、と聞くと、少しだけ黙ってパパ、と答えた。
リビングに行くと、秋夫さんがテレビで駅伝を見ていた。タバコの半分が燃えて、白い灰になっていた。
「どうして、千鳥に兵隊のオモチャを買ってあげたの?」
と私が聞くと
「千鳥が欲しい、って」
とそっけない答えが返ってきた。
オモチャの兵隊。私があの継ぎ目だらけの不細工なミッキーマウスで遊んでいるのと、どちらが滑稽に見えるかしら、と考えておかしくなった。
窓から強い斜陽が入って、テレビに反射していたから私は静かにカーテンを引いた。タバコの煙が見えなくなって、途端に部屋が暗くなった。
「どうしたの?」
と秋夫さんが聞いたから、
「テレビが見にくいと思って」
と答えると、
「そっか、ありがとう」
とお礼を言われた。
千鳥の隣に座って、オモチャの兵隊を手に取ってみた。ごつごつしたブロックで組あげられた、お世辞にも強そう、なんて言えない格好だった。
「ママも遊ぶの?」
千鳥が舌足らずの口調で私に尋ねる。
どうしようか、なんて一瞬だけ考えてから、
「ママはちーちゃんが遊ぶのを見てるよ」
と言った。
リビングの方から、ジュッというライターを擦る音が聞こえた。さっきのタバコはもう吸わないんだろうか。もったいない、と私は思った。
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