日曜日

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千鳥が本を読んで聞かせて欲しい、と言うのでしばらくそうしてあげた。何回も読み聞かせしてあげた本は、今では目をつむっていてもすらすらと口に出来る様になった。本の途中でいつの間にか眠っていた千鳥は、目元が秋夫さんにそっくりで、鼻から頬にかけては私に似ている。千鳥も私と同じように、あまりよその子とは遊ばないようで、幼稚園の先生にもそういった報告を受けている。 寝室に入って電気をつけると、秋夫さんはもう眠っていた。いつかの昼間に見たテレビで、セックスレスが離婚の原因に、なんてことを言っていたのを思い出して、馬鹿馬鹿しい、と思った。 軽く髪をすいてから秋夫さんを起こさないように、隣に入った。ゆっくりと寝息を立てる夫は、優しくて約束をきちんと守る人だけど、どこかに情熱を置き忘れてきたみたいな人。私だってよく人から、表情が乏しい、お人形みたいな人ね、と言われるから、多分お似合いの夫婦なのだろう。 しばらく天井を見つめて、目を閉じてみる。私はいつかの夏の日を思い出して、それからいつかの秋の日を、そしてまたあのミッキーマウスを思い出した。 陽射しを浴びて、芳しい布団の臭いのミッキーマウス。 絵画の下敷になって黴臭いミッキーマウス。 そして、私達夫婦のベッドの下に、夫に知られない様にしまってあるミッキーマウス。 どれもこれも、滑稽な程継ぎ目だらけの不細工なミッキーマウス。 思い出して少しだけ笑って、私は今日も眠りに就く。
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