キンモクセイ

2/6
前へ
/75ページ
次へ
僕は夢を見ている。それは今までに見たどんな夢よりもクリアで、非抽象的なものだ。 大きな窓の連なるリノリウムの廊下。春の陽射しは暖かな日溜まりをそこに作り出していて、埃たちも気持ちが良さそうに漂い、くつろいでいる。 僕が歩くたびに風景は微かに揺れ、命を取り戻していくみたいに、世界が蘇生されていくみたいに喧騒が沸いてくる。 そこには僕の良く知った人達が、良く知った場所に集まって、親密に話をしている。今は廃校になった、僕が幼少の時分を過ごした小学校の教室。小学校時代のクラスメイト、中学時代のクラスメイト、さらには高校時代のクラスメイトまでもが、今の僕と同じ年齢の姿としてそこにいた。 奇妙なもので、小学校を卒業したその日以来会ったことのない、今では間違いなく、容姿の大きく変化しているであろう彼等の成長した姿を、僕は自らの夢の中であまりに正確に、一切の疑いもなく見ることが出来た。 彼等は、整然と机の並んだ教室の中で、ひどく自然に談笑していた。さもここが自分の然るべき居場所であると主張するかのように、あるものは声を上げ笑いながら、あるものは慎ましく微笑みを交しながら。
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

54人が本棚に入れています
本棚に追加