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―にゃぁ~おん―
昔々のお話です。
場所は吉原、男は天国 女は地獄の花魁(おいらん)のお国にございます。
そんな吉原に…おやおや、一目を忍(しのぶ)男女の影。
さも珍しい事ではございません。
商品として一生を送らなければならない娘子と貧乏浪人(びんぼうろうにん)の優男(やさおとこ)。
その時代に彼等のような者達が結ばれる事などありゃしません。
逃げ出す者は連れ戻されるか、殺されるか…それが吉原の掟。
しかし、若い身空の二人にその熱い胸の内を止めること出来ず…
「もう我慢なりませぬ…
愛しい貴女に他の男が触れるなど…私にはとても堪えられない…!」
「堪忍(かんにん)して下さいませ…
わたくしの身の上がこの様なばかりに…」
「何をおっしゃる…私が、もっと名のあるお武家なら…貴女をここから出す事も出来ました。
貴女が自分を責める必要などありません」
「それこそ…うちはここで朽ちていく身なれば、ただ、貴男さまがこぉしてお会いして下さるだけで充分なんどすぇ。
もし…辛ろぅございましたら…
うちの事など…忘れてしまってくださぃ…」
女は着物の袖口で涙を抑えて唇を噛み締めなさった。
するとスルリとやって来た黒猫が一匹…
黒猫は女の飼い猫で名を『黒』と言うた。え?そのままやて??
そんなんケチつけんで下さいませ。
話し戻しますけど、主を慰めに寄ってきた黒を抱き上げると、女は言った。
「お前は自由でほんにええなぁ…」
そんな二人を見て男は考えた。
―このまま二人で
逃げてしまえば―
「お願いしたき事があります…
私と命を共にして下さらんか…?」
「………!?
…貴男となら何処へでも…」
「落ち合う場所は町外れの地蔵の前で」
「あんたはんもお気を付けやす」
ある晩の事、意を決した二人は吉原から逃げ出す事を約束し闇夜に消えました。
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