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女の死を知らない男はずっと待ちよった。
吉原で死によったと噂が流れても。
約束の夜からその女の影一つ見えんくなっても。
男は待ち続けた。
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時が経ってぇ早六年…
男も生やした髭が板に付くようになっちょった。
そんな男の前にフラリと現れたんは…
なんと待ちわびた花魁の女だった。
その日は約束の夜のようなぁ…綺麗な満月じゃった。
姿も六年前のあの頃のまま…
一つ違うのは、塗れ黒羽色の髪にひょっこり生えちょー獣の耳と後ろ背の方からひょろりと覗く黒い尾っぽだけ…
女は目ぇを細め笑うて、男に手を差し出す。
「ああ…ずっと、ずっと待っていました」
男が迷う事無く手を差し出せばするりと女に手繰り寄せられる。
するとどうだろう…
女は小太刀(こだち)を取り出すと、まるでそれは男の胸に飛び込むように“ブスッ!”と男の胸に風穴を作ったではないか。
「わたくしも…
お会いしとう御座いました…
結ばれましょう…永遠に…」
もしかしたら…
男は気付いてはりましたかもしれませんねぇ。
その愛しい女がこの世の者ではなかったと…
その後、約束の地蔵の前には男と黒猫の死骸だけがあったそうなぁ…
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