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多分、わたしは‥
手術室の扉が閉まる。
両親の顔が見えなくなる。
周りを見渡すと、テレビで見たようなすげー機器が並んでる。
勝俣似がなんかみんなに指示を飛ばす。いよいよ試合開始って雰囲気アリアリだ。
麻酔医のお姉さんがあらわれ点滴を用意する。
「やっぱ‥香水キツい‥」
思わず声に出す。
キッと睨まれる。
周りの景色が嫌な感じに歪む。
そこからいきなり記憶が飛ぶ。
夢かな?
色んな場面がiPodみたいにシュルルってスクロールできる。
はじめに再生されたのは誰かのライブだった。
ステージに近いブロックだ。見上げれば、そこにはプライマルスクリーム。
思い出した。財布もカードも免許証も全部なくした、あの時ライブだ!
でも、盛り上がってる最中に、またスクロール。
次は何か講堂みたいな所だ。
用紙が配られている。
大学の期末テストか?
経済政策?
もしかして、採点ミスがあって落とされたあのテストか?
「足し算間違える大学講師なんてヤバくないですか?」と言って食いついたが、成績発表後の答案返却という訳のわからないシステムにハメられたあのテストか?
そんな感じで様々な場面が呼び起こされては消えていく。
目線は全て自分だ。
だから、自分は出てこない。
また、画面が飛ぶ。
今度はどこだ?
ひどく暑いぞ?
何やってるんだ?
グランド?
サッカーボール?
部活?
試合?
んぁ?
どっかで見た感じ?
思い出した!
あの試合だ!
中学の夏!
都大会の2回戦!
先攻のうちは3回決めてて、相手は1回だけ。
こんな試合あったあった。
で、誰が蹴るんだ?
僕はこの試合でPK蹴った記憶はないし?
確かアイツが‥
あら?
何で?
僕?
僕がですか?
いきなり無理ですよ?
『気合いだ!気合い!』無責任なエール。
笛が鳴る。
仕方がないから開き直り一気に蹴り込む!
ボールはキーパーの指先を弾いてサイドネットに収まる。
決まった!
勝った!
勝利の雄叫び!
歓喜の叫び!
「おっしゃぁ!マジだぜ!」
それが術後、はじめて発した言葉だった。
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