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佐村葉月は長身で、一度も染めた事がない艶やかな黒髪を腰まで伸ばしていた。
体もシャープで顔は整い、通った鼻筋と薄い唇、切れ長の二重が印象的だった。
そんな彼女は大手警備会社の班長クラス、資格はあれど隊長になるつもりはさらさらない。
警備と機動の真ん中に位置し、様々な任務をこなしている。
何より、彼女は面接の時に男性の制服を要求し、入社して三年は経過した今も年中、その制服だ。
今日は愛車の赤いランドクルーザーで出勤、本来ならば非番のはずなのに機動隊長に呼ばれてしまい、ため息まじりに車を停める。
藍色の上下に安全靴、ベルトの上に白いベルトをまいて、ハクタイ、と呼ぶのだが、それに特殊警棒などをしまうケースをいくつかさげている。
そのまま会社のワッペンを胸元と左肩につけ、帽子をかぶると支社に入った。
真っ直ぐ、いつもの迷いなき足取りで事務所へ向かえば、自分がドアを開く前に誰かが飛び出してきたではないか。
「おっと、悪い佐村!さっそくなんだがな、今研修室に新人がいるんだ、覚えはいいが、実戦を想定しての」
「基本対応を示せばいいんですね?」
機動隊長の言葉を遮り、葉月はぷい、と背中を向けて下にある研修室へと向かう、その後ろ姿を見て機動隊長も苦笑した。
愛想がない、しかし仕事に文句は出ないのだから困ったものだと。
当の葉月はキャップをぬいで、長い髪を二回ほどふると研修室のドアをノックした、正確には叩いた。
は、はい!と中から若い女性の慌てた声がして、ついでに安いパイプイスの倒れる音も響く、それに構わない葉月はドアを開けて中へ踏み入った。
おたおたとイスを拾い、立ち上がる新人をテーブル越しに見つめていると、ため息をついて葉月は倒れたイスの一つをあっさり起こした。
その時に触れた新人の指先、それがビクッとなったのを見逃しはしなかった。
起立して葉月を見上げる新人は、大きな目をさらに開いて緊張した面持ちで見つめてくる。
「さ、真田優香です、よろしくお願いいたします」
茶色のボブカットが揺れるくらい頭を下げられ、葉月はとりあえず落ちた教本を拾い上げた。
警備法などがびっしりつまったそれ。
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