開いた扉

2/3
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
佐村葉月は長身で、一度も染めた事がない艶やかな黒髪を腰まで伸ばしていた。 体もシャープで顔は整い、通った鼻筋と薄い唇、切れ長の二重が印象的だった。 そんな彼女は大手警備会社の班長クラス、資格はあれど隊長になるつもりはさらさらない。 警備と機動の真ん中に位置し、様々な任務をこなしている。 何より、彼女は面接の時に男性の制服を要求し、入社して三年は経過した今も年中、その制服だ。 今日は愛車の赤いランドクルーザーで出勤、本来ならば非番のはずなのに機動隊長に呼ばれてしまい、ため息まじりに車を停める。 藍色の上下に安全靴、ベルトの上に白いベルトをまいて、ハクタイ、と呼ぶのだが、それに特殊警棒などをしまうケースをいくつかさげている。 そのまま会社のワッペンを胸元と左肩につけ、帽子をかぶると支社に入った。 真っ直ぐ、いつもの迷いなき足取りで事務所へ向かえば、自分がドアを開く前に誰かが飛び出してきたではないか。 「おっと、悪い佐村!さっそくなんだがな、今研修室に新人がいるんだ、覚えはいいが、実戦を想定しての」 「基本対応を示せばいいんですね?」 機動隊長の言葉を遮り、葉月はぷい、と背中を向けて下にある研修室へと向かう、その後ろ姿を見て機動隊長も苦笑した。 愛想がない、しかし仕事に文句は出ないのだから困ったものだと。 当の葉月はキャップをぬいで、長い髪を二回ほどふると研修室のドアをノックした、正確には叩いた。 は、はい!と中から若い女性の慌てた声がして、ついでに安いパイプイスの倒れる音も響く、それに構わない葉月はドアを開けて中へ踏み入った。 おたおたとイスを拾い、立ち上がる新人をテーブル越しに見つめていると、ため息をついて葉月は倒れたイスの一つをあっさり起こした。 その時に触れた新人の指先、それがビクッとなったのを見逃しはしなかった。 起立して葉月を見上げる新人は、大きな目をさらに開いて緊張した面持ちで見つめてくる。 「さ、真田優香です、よろしくお願いいたします」 茶色のボブカットが揺れるくらい頭を下げられ、葉月はとりあえず落ちた教本を拾い上げた。 警備法などがびっしりつまったそれ。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!