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5 そんな…!!
試合は始まった。
ところが打順一番、二番と簡単に連続三振を取られてしまった。無理もないよ。ピッチャーの吉田は現在、野球部のエースなんだから。
それにしても不甲斐ない。ゴロでもファウルでもいいから、せめてボールにバットくらい当てたいぜ。
オレがバッターボックスに向かうと、紗智が大きな声援をおくってきた。
「ヤギー!! しっかりねー!!」
うわ、なんだよ、今日はオレを避けまくってたくせに。
他の女子からも、今の紗智の声につられた笑い声と声援が起こった。
「ヤギくん、頑張れー!」
なんなんだ、このカンジ…。うれしいというか、恥ずかしいというか…。うおっ、オレ右手と右足が一緒に出てる!!
紗智の隣りで愛もしっかりこちらを見てるよ…。
オレは気持ちが浮ついたまま、バッターボックスに入った。吉田がコワイ顔でにらんでくる。
まずいな。女子の声援なんか受けたオレに、ヤツは敵愾心(てきがいしん)むきだしになってるぜ―。
吉田のものすごいストレートが斎藤のミットに大きな音を立てて収まった。
オレは手も足も出なかった。
ジワリとてのひらが汗ばむ。
吉田は口の端を少し持ち上げている。
なんだよ、コイツ。野球部でもないオレに本気出しやがって。
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