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淡い闇が次第に濃紺へ姿を変える頃。
行き交う人の増えた歓楽街の隅に、只ひっそりと立ち竦むビルが在った。
大半のテナントは空いているのか、外に張り出した看板には空所が目立つ。
当然ビルを出入りする者も疎らだが、その数が皆無な訳では無い。
ビルのエントランスを突き進む。
塗装も剥がれた旧式のエレベーター横には、猥雑なチラシや吸殻に塗れた上に所々ひび割れた階段が。
上へ向かうには、“立ち入り禁止”のカードを下げたポールに妨げられる。
どうやらこの階段は、地下へしか繋がらない様だ。
期待を裏切らずに薄暗く、人が擦れ違うのも困難であろう程に細い階段を降りた。
降りるにつれて、煙草の脂臭さと粉っぽい化粧品の匂い、安い蒸留酒の樽臭さが入り交じって鼻を突く。
漂う、などと生易しいものでは無く、不意に襲い掛かる空気。
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