遠いあの日

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「まー、でも、あの世界よりかはマシだな」  彼は欠伸をしながらそう言った。  この世界は、「上の世界」とは違って四季がある(常夏の地もあると耳にしたが、海を隔てたずっと先らしい)。陽が上り、沈む。夜がきて、深い紺色の海に月が浮かぶ。  何より、精一杯生きている人々に出会える。とはいえ、この世界の人々は私たちを見ることができない。私たちは空気と同化しているように、いや、映画のスクリーンを観ているかのように、ただ傍観する。コミュニケーションの手段は無い。  そして、この世界の人々の死に出会うことも、珍しいことではなかった。当たり前だ。この世界では、生きている者はいずれ死を迎えるのだから。けれど、だからこそ生命は輝いていた。人々だけではない、生きている者の全てがそうだ。  
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