遠いあの日

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 ああ、そう言われてみると、そんな気がしてしまう。第一、感情に善も悪も無いのだ。怒りや憎しみさえも、生きている証拠のような気がした。 「だけどさ、生きてみたいよね」  声が、震えた。感情が高ぶっているのだろう、言葉が のどにつっかえる。彼は じっと、続くであろう私の言葉を待っている。 「この世界の人たちみたいに」  視界がゆわゆわと揺れる。堪らなくなってうつむくと、ぽろ、と涙が落ちた。 「がむしゃらに」  言い終わると、まもなく嗚咽した。彼は困ったような声で笑い、そうだなと私の頭を撫でた。   
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