善逆非道

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キリストが生まれようが死のうが,その日を世界中で祝おうが祝わなかろうが,彼女の仕事には関係が無い。   そんな存在が生まれる前から彼女は働いていたし,今もなお働いている。時にいつこの仕事に終りが来るのかと思案してみるが結果は芳しくない。彼女が働けば働くだけ仕事は増えていく。   普段から忌々しい教会にも通ってないのにそれこそ国をあげて街を電飾で彩るような民族は理解し難いと,毎年この季節になるたびに彼女,亜心小生(あごころ こしょう)は街を見下ろし思うのだ。   さて,この所一週間ほどかかった仕事がようやく終わり,魔界に報告書を送ったところで本来の,悪魔としての彼女の仕事は今日は終りだった。そのまま自宅兼仕事場でスピリタスでも飲んで次の日を迎えるというのがいつもなのだが亜心は何かに誘われるように街へ出ていった。   「あの小僧が,偶像化されるとは思わなんだな」   そこらかしこに飾られる髭の爺を見て昔を懐かしむ,まさか教会の手下になり下がるとは思ってもいなかった。  ただ,教会は嫌いだがキラキラと光る電飾の類は実は好きだ。魔界にはこういう無駄なものが少ないから。   そんな折に亜心のセンサーに触れる人間がいた。その人間はこんな明るい夜にブラックホールのような表情で銀行を見上げている。その顔の下には長いコートを着て,片手だけをそこから出しているのが見える。
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