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真昼…レイこと夜無月零(やなづき れい)は、赤捺高校の中庭にいた。赤茶の髪、紅の瞳、全校400人の中でも目立つ特異体質の彼女は、常に独りだった。周りが避けているのではない、むしろ彼女の綺麗な顔立ちや個性的な体質に惹かれ、近寄る者のほうがおおい。そういった人を避けているのは彼女のほうだった。
「…」
レイは自動販売機で紙パックのジュースを買い、近くのベンチに座った。
「あ、夜無月先輩。こんにちは!」
「ちわ」
レイは相変わらずそっけない感じで軽く返事をする。
「あの…となりいいですか?」
拒否する理由もなく、後輩に恨みもない。先輩命令等のくだらない権力にも興味のないレイは、べつに、と軽く促すだけだが、それでもその後輩は何故か嬉しそうに座った。
「先輩ってあの『血塗られた幸福』とか描いた…」
レイはジュースを飲みながら軽く頷く。
「オレ、あの絵大好きなんです!というか、先輩の絵が目標なんです。」
いきなり褒められ、レイは少しキョトンとして隣の男子を見ていたが、すぐに元の無表情に戻った。
「…絵、描いてるの?」
もし、この場にレイのクラスメイトがいたら、どれだけ驚いただろう。レイが人に興味を示すような言動をとることはとても珍しい事なのである。まして、他人の事について質問するような事はここ数年間一度もなかった。
「はい!まだまだ下手なんですけど…俺美術部入るつもりなんです!…先輩、たしか美術部でしたよね。入部したらよろしくお願いします。」
ん、と適当な返事をし、再びストローをくわえる。白いストローがすぐに赤色にかわる。内溶物を飲み干し、慣れた手つきでパックを潰していく。
「あ…ゴメン」
潰す際に残っていた内溶物が飛び出し、後輩の制服にかかった。レイはハンカチで拭き取ったが赤い染みが出来てしまった。
「あ、先輩。気にしないでください。…トマトジュース…?珍しいですね?」
「…そぅ?」
「いや、フルーツジュースとかはよくありますけど」
「…ふぅん」
レイはもう一度軽目に謝り、立ち上がった。自動販売機の横のくずかごに潰した紙パックを捨て、中庭をあとにした。
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