トマトジュース

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授業が終わり、部活動が始まる。そんな時間が、普段、日常での高校生活で最も賑わう時間帯だとレイは思う。運動部の生徒達が着替え始めると会話が増えるような気がするのだ。 だが、レイにとってはどうでも良い事の一つでもあった。 美術室へ行く前に、レイは必ず中庭を通る。本当はむだ足なのだが、レイがここをわざわざ通るのには理由があった。 昼に来た、あの自動販売機…レイの足は自然とそこへ向かっていく。 学園特別生徒専用パスカード式ジュース自動販売機。 たしか正式名称はこんなんだったとおもう。 この自動販売機には、電卓のように数字がついている。一言で言い表すならば『箱』である。一切装飾されず、商品窓もない。あらかじめ予約しておいた商品をパスカードを通して買うため、商品を選ぶための商品窓などは不必要なのだろう。 レイはまた紙パックのジュースを買った。 「あ!夜無月先輩!!美術部はどこで活動してるんですか?」 ふと聞き覚えのあるような声に、レイは振り向く。声の主は、昼にであった後輩であった。 「美術室」 「…見てきましたけど…誰もいなかったですよ」 「…今日、部活ないから」 「え゙!?」 どうしよう、明日登録だから見学しようと思ったのに…と落胆の色をあらわにした後輩に、今日は借りがあることを思い出したレイは、まあ…と口を開く。 「私だけでよければ見学してもいい」 「ほんとですか?!」 「制服の詫び」 レイはそう言って後輩の制服に付けてしまった染みを指した。 別に絵を描き始めたらすぐ汚れるから気にしなくていいですよ、と彼は苦笑いした。あ、でも見学させてください。と付け加える。 レイは軽く頷き、ジュース片手に美術室へ足を向かわせた。
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