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とは言っても、夏にあったそのレース以外にテレビでバイクレースが放映されることもなく、雑誌にもなかなか戒音の姿を見ることはない。
もっとバイクレースが流行ってくれたなら、もっと戒音を見れるのにって悔しい。
あたしの家の近くには、サーキットがあって、そこにはバイクレーサーたちが練習へときている。
サーキットはフェンスで囲まれていて、レーサーたちの姿はすごーく遠くに見える。
戒音がいたとしてもわからない。
どうすれば戒音に近づけるのかわからないまま冬になってしまった。
あたしはこたつに入り、戒音、戒音と頭の中はそればかり。
輝がどこかへ出かける用意をしているのを横目に見ていた。
鏡見ながらワックスなんてつけて、なんか微妙にオシャレしているように感じる。
あたしの中の何かが、ピピッてきた。
直感というやつだ。
「輝、どこいくの?」
「友達んち」
更にピクピクって、あたしの中の何かが反応する。
あたしはあたしの直感を信じる。
輝がいくところに何かいいことがある。
あたしはそう思うとこたつから抜け出して、コートを羽織ってマフラーを巻いて、手袋をつけた。
「……なんでついてくるんだよ?」
輝は後ろをてくてくと歩くあたしを振り返る。
「輝がいくところになんかあるっ」
「なんもないって。ついてくるな」
「いいことあるっ」
「ないないないっ。ついてくるなっ」
輝は言うと、あたしをおいて走り出した。
あっ。逃げたっ!!
「待て、輝っ!」
あたしは一生懸命走って追いかけたけど、輝の逃げ足は速かった。
輝の姿が見えなくなって、あたしは息切れしながら立ち止まる。
くそぅっ。輝のくせにっ。
あたしをおいて逃げるとはっ。
それにしても…。
あたしはあたりを見回す。
見たこともない場所だった。
ここはどこだ?
きょろきょろあたりを見回したけど、やっぱり知らない町だった。
なに?あたし、迷子?
輝のせいだっ!
かわいい妹を振り切って逃げたりするからだっ。
あたしが知らない町で変質者に襲われたらどうしてくれようか。
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