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仕方がないので、家に帰ろうかと歩いたけれど、知らない町。
輝を必死に追いかけていたから、どこをどうきたのかもわからない。
あたしはくたびれて、見つけた公園のブランコで休む。
うぅっ。いいことあるって思ったのに…。
あたしの直感、寒さで鈍っちゃったかな?
あたしの直感は当たるほうなのだ。
だから戒音を見たときに、この人しかいないって思ったあの直感も当たっている。
たぶん。
あたしは手袋をはめた手に息を吹きかけて、見えた自販機の近くまでいって、そのホットのミルクティーのボタンを押してみる。
もちろん出てくることはない。
お金…、輝についていくことばかり考えて持ってきてない。
あたしのポケットには飴玉が2つしか入っていなかった。
あたしは自販機のホットのミルクティーとにらめっこをする。
飲みたいっ。
なんて思って出てきてくれるわけがない。
そんなあたしの後ろから腕がのびてきて、ビクッてして振り返ると、背の高い男の人がいた。
輝より背が高いと思う。
でも輝と同じくらいの年齢。たぶん高校生。
長い黒のコートとグレーのマフラー。
「なに飲みたいの?チビスケ」
彼は自販機にお金を入れながら聞いた。
あたしは開いた口を塞ぐことができず、そこに立っている人を、ただ見上げて見ていた。
何度も何度も繰り返し見た。
あたしの心、一瞬にして射止めてくれた。
そう。この人っ。
「戒音っ」
あたしは声をあげた。
戒音は自販機からあたしへとその視線をうつしてくれる。
やっぱりかっこいいっ。
戒音だっ。本物だっ。
「なに?俺の名前知ってるのか?チビスケ」
なんか普通だ。
感動の出会いだというのに。
それに…、むぅ。
「あたし、美保子っていうの。チビスケじゃない」
2回も言われた。
確かに同学年の誰よりちっちゃいよ?
身長142しかないよ?
戒音の腰くらいの目線だよ?
でもチビスケは失礼だと思う。
「チビスケはチビスケだろ。ほら、なに飲む?」
ぶぅっ。
もしかして小学生だからって馬鹿にされてる?
あたしは思いながらもミルクティーのそのボタンを押した。
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