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ドアを開けたかめちゃんは、もう泣いてはいなかった。
ちょっと俯きがちに
「あがって」
ただそれだけを言って。
毛足の長い絨毯にソファに寄り掛かって座った。
少し離れた距離で、おれも同じように座って。
黙って俯く横顔を、そっと盗み見た。
言葉はきっと、届かない。
彼は今、たったひとりでいる。
この、人口のバカみたいに多い場所で。
ただ黙って近くにいることしかできないんだ。
……じんなら、どーすんだろ……
ヘタな言葉で散々に励ますんだろうか?
時計の秒針だけが、静かに響く。
「ぴぃちゃん」
何時間か分からない沈黙を破ったのは、かめだった。
「死にたいって、何度も思ったんだ」
そなひと言に、心臓が氷にみたいに冷たくなって。
「でも、おれ、生きてる」
ふっと、息を吐いた。
“おれ”って使ったら、もう大丈夫。
「ありがとう、ぴぃちゃん」
そう言って、鋭い瞳が微笑んだ。
「惚れた弱みなんだから、いくらでも利用してよ?」
少し離れた距離は、一気に、近い距離になる。
手を伸ばしたら触れられる、そんな距離。
「ぶはっ///うん、使う使うー」
キミはアイツみたいに鈍くないから。
おれのホンキが見えるでしょ?
生まれてきてくれて、ありがとう。
生きててくれて、ありがとう。
聖キリストが生まれた日に、乾杯。
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