お月さまの向こう側

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  仕事が終わって、急いで車で帰る。 隠すようにクローゼットに仕舞われた服の中から、お気に入りのものを選んで。 ふわっと内巻きに巻いた髪。 甘い花の香りの香水。 ハイウエストのワンピースに、大きなリボンを巻く。 家の前でタクシーを捕まえて、待ち合わせ場所に向かった。 そこは、クリスマスに赤西と来た、あのツリーの前で。 時計を気にしながら立つ姿は、あの日の彼に重なった。 「黒沢さん?」 だけど、振り向いた顔は笑顔のまま。 「ごめん…待ったよね?」 少し上目遣いに尋ねれば、ぶんぶんと顔を横に振って。 「おれも今、来たとこですから」 少しはにかんだような笑顔が、とても可愛く思える。 ……母性本能くすぐる感じ?…… ふふっと笑って、ちょっと急ぎ足に彼の隣を追いかけた。 連れてきてくれたのは、ちょっと見た目怪しげなネパール料理のお店。 地下に続く階段を降りると、そこはカレーのいい匂いが充満していて。 「アッキー、今日ハ、美人サン一緒デスネ」 ピンクとブルーの民族衣装を着た女の人が迎えてくれるお店だった。  
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